――――チリン


 金貨が落ちる音と同時に弾かれるように二人の距離がさらに広がる。二人は離れた距離から睨み合う様なことはなく、ほぼ同時に互いの弾幕を展開する。しかし、単発は重いが連射性にかけるスレイヤーの弾幕に対し、同じ様に連射性は無いが相手の弾幕に弾かれることの無いレーザーの様な弾幕を紫は展開した。それを危険と判断したスレイヤーはその場から空間転移し、紫の背後に移動すると同時に彼女の頭部目掛けて拳を繰り出す。が、当たったかと思われたその拳の先は紫の遥か先に突き出ていた。彼女の頭を貫通している訳ではなく、彼女が咄嗟の作り出した空間の小さな空間の隙間によって拳の到着点をズラされたのだ。スレイヤーがその解答に行き着く頃には、彼女の畳まれた扇子が彼の頭部に一閃する。もしスレイヤーがなんの戦闘能力を有していない人間だったならば、彼の頭は迷子になっていたであろう程の衝撃が彼に走る。彼がたたらを踏む様に少しばかり後退すると、彼女は続けて扇子で彼の頭部を強打すると、地面にまでも隙間を作り体を沈め、彼の拳を移動させた隙間とは違う、攻撃性のある隙間を彼の身体に切りつけ、止めに日傘で彼の頭部に突きが一閃したがその先を彼は掴
み取る。常人には絶対に掴み取る事などできないと思っていた突きを止められたことに紫が驚きの表情を浮かべていると、対象的にスレイヤーは余裕な笑みを浮かべ
「レディ・八雲。これではあまり我々のいた世界の勝負と変わらない。この勝負を続けるのであれば、先程の不釣合いな条件を変えていただきたいのだが・・・」

スレイヤーが思っていた『弾幕勝負』とは、殴る蹴るなどの物理攻撃はあくまでおまけであり、戦いの大半は弾幕が占めるのかと思っていた。しかし始まってみれば弾幕を展開させたのは最初だけ。物理攻撃が主で弾幕がおまけになってしまっている。先程までは前者の様な戦いになると思っていたからこそスレイヤーは、「紫に勝ったら幻想郷に入れるが、負けても特にペナルティは無し」という明らかに不釣合いな条件を飲んだが、この様な勝負であの条件とあらば彼は納得できない。

「どんな変更を御所望なのかしら?サー・スレイヤー?」

本当の事を言えば彼の力で結界を破ったのだから、彼は紫と戦う必要なく幻想郷へ入る事ができるはずだった。よって、いくら紫の気まぐれで戦う事になったとしても、彼女は彼に帰れと言える立場ではなかったが故に、あのような不釣り合いな条件を言ったのだが、スレイヤーにとってそんなことは関係なかった。

「私が君に勝ったら幻想郷に入れてもらおう。しかし、私が負けたら、私はここから去ろう」

これで同等と言わんばかりにニコリと笑い、傘を手放す。すると紫は堪える様にクックと笑うとついに堪えきれずに、声高らかに笑った。

「あははは!!このスキマ妖怪が平等な条件で喧嘩を売られるなんていつ以来かしら?」

幻想郷ができてから約千年。特に博麗の巫女が現在の人間に代わってからは特にこのような喧嘩は無くなった。たまに起きる異変に便乗して少しストレスを発散させるくらいのものだったので、今日のように思いっきり暴れるということは全くなかった。

「では、了承と受け取ってもかまわんかね?」

「えぇ。そうね」

その言葉と共に再び二人は弾けるように距離を取る。しかし、スレイヤーの世界の喧嘩とさして変わらないとしても、「スペルカードルール」で戦うことに変わりはない。そういう点に関しては小さな違いではあるが、スレイヤーにとっては大きな違いだった。

 スレイヤーが紫に向って、腕を薙ぐ。するとその軌道に銀の弾丸が等間隔に設置され、紫に音速で襲いかかる。左右に逃げ道がないと瞬時に判断した紫は地面を蹴り空へと逃げ、そのまま滑空してスレイヤーに襲いかかるが、それを読んでいたスレイヤーは紫に背を向けたかと思うと、上半身を倒し彼の上空に迫った紫を蹴りあげる。顎に命中した紫の進行方向は変わり、ふわりと宙を舞い、彼は追撃のために地面を蹴り紫を追う。スレイヤーはまるで走り幅跳びの剪み跳びの如く手足をバタつかせ、紫をそこに巻き込む。すると、彼はここぞとばかりにスペルカード宣言を行う。


光速「直下型ダンディー」


 今まで放物線を描いて跳んでいたスレイヤーは物理法則を捻じ曲げそこから直下する。その軌道の先には態勢を持ち直した紫がいた。しかし、黙って攻撃を喰らい続ける紫ではない。しかし、今のスレイヤーに向かって弾幕を展開したとしてもそれはすぐに弾かれるであろう。そう判断した紫は、扇子で目の前の空間を切り裂き、隙間の盾を作りだす。流石のスレイヤーもこの状態から軌道を変えることができないのか、そのまま隙間の中へと直進した。紫が作った空間のトンネルの出口は地面すれすれ。出てきた瞬間頭を強打するという算段だったのだが

「甘いよ。レディ」

同じ手を二度も喰らうスレイヤーではなかった。トンネルから出てきたのはスレイヤーの頭ではなくマントのドア。そう。空間のトンネルから出た瞬間マントのドアを使って紫の目の前に空間転移を行ったのだった。この空間転移は紫にとってあまりにも予想外だったため、避けようにも身体が硬直してしまって動くことができず、彼の光速の攻撃を甘んじて受けてしまった。

「ガ・・・ハァ!」

地面へと背中から叩きつけられた紫は苦痛の呻き声をあげるが、身体はそのまま地面をバウンドし、再び宙を舞うとそのまま態勢を立て直し、スレイヤーの追撃を許さない。空中を蹴り地面へと舞い戻ると、紫も負けじとスペルカード宣言をした。


廃線「ぶらり廃駅下車の旅」


 紫の背後には今までの空間の隙間とはケタ違いな大きさのモノが展開され、その中からは何やらクラクションのような音が轟く。スレイヤーもその音の正体が気になるのか、あえて紫に襲いかかることはなくそれを待つことにした。隙間から飛び出してきたのはボロボロになった電車だった。

「・・・!?」

音の正体を知ると驚いて後ろへと跳ぶが、例え後ろに逃げたとしてもそこは電車の通り道。空間転移で紫の目の前に出したとしても、あの電車は紫が召喚したものである以上、紫がこの電車に轢かれることはありえない。

「・・・ならば」

そうつぶやくと彼は自らの目の前にマントのドアを展開する。それも電車が通れるほどに大きく展開したもので、紫から身を隠す。こうすることで、スレイヤーが紫に行ったようなことをさせないためである。しかし、それだけで追い打ちを諦める紫ではなく、スレイヤーの後ろへと姿を現し、先ほど失敗した突きを再び繰り出すが、それは空を突くことになってしまう。スレイヤーは切っ先の数歩先に後退していて、傘を持つ手が引かれると同時にスレイヤーも紫に踏み込むと同時にスペルカードを宣言する。


鉄拳「パイルバンカー」


「砕けたまえ!」

繰り出された右拳は紫の鳩尾へとめり込む。そのまま紫は後ろへと飛ばされ、迷ひ家の壁へと激突した。壁が崩れ落ちると、そのまま紫を生き埋めにするかのように彼女の上に瓦礫が重なる。

「ふむ。今回は私の勝ちのようだね」

ガラリと瓦礫の中から紫がはい出してくると、悔しそうに笑う。

「残念。貴方を追い返してやりたかったのに」

瓦礫に頬杖を付いてふぅと溜息をつく。