金色の六角柱を構えた魔理沙と名乗る少女に唐突に突きつけられた形の無い挑戦状。しかしスレイヤーからすれば喧嘩をするには十分なきっかけだった。彼にとって相手が男であろうが女であろうが、果ては少年だろうが少女だろうが犬猫だろうが老人だろうが関係ない。つまるところ彼が喧嘩する相手の条件と言うのは喧嘩するに値するほどの強さを持ち合わせているかどうかの一つだけ。つまり幻想郷にやってきてから喧嘩をした紫はスレイヤーのお目金にかなったと言えるところであり、少なくとも魔理沙は紫よりも高い実力を持っていないとスレイヤーに相手されることはないだろう。

「行くぜ!」

そう言って金色の六角柱を空に向けると、ドゴンと鈍い音を上げてそこから金色の光が打ち上げられはるか上空でその光がドンと音を立てて弾け飛ぶ。

 空から降り注ぐ金色の光がゴングとなり、二人の間に緊張の糸がピンと張る。魔理沙はまるでボクサーの様な構えを取っていたが対するスレイヤーは相変わらず優雅にパイプを蒸かしていた。その彼の態度に苛立ちと疑問を覚えた彼女はたまらずスレイヤーの構えに対して口を出した。

「構えなくていいのか?舐めてるにも程があるぜ」

彼女は基本的に戦いにおいて手加減をされる事を嫌う。となれば当然スレイヤーの取っている構えとはとても思えない構えに腹も立てる。しかしそんな魔理沙の苛立ちをからかう様に彼はクスリと笑う。

「短気は良くないぞ?その一瞬の油断が命取りになる」

そう言い切ると同時に目の前から迫り来る蒼白く光る極太のレーザー光線。しかし彼は焦るわけでもなくやれやれとため息を着く様にひらりと身を交わす。

 ―――何!?

 先ほど放ったレーザー、ナロースパークは奇襲だった。普通の相手であればあのレーザーに気づくと同時に驚きによる硬直で回避できずに被弾する。もしかわせたとしても殆どの確率で相手は狼狽している。そこに追い撃ちをかける事ができたのだが、彼は驚くどころか溜息まで漏らした。魔理沙が驚いた理由はそこにあった。もし何も考えずに追い撃ちをかけていれば確実にカウンターをされていただろう。

「よく判断した。しかし攻撃に怒りを込めるのはいただけない。後々冷静な判断をする事ができなくなるぞ」

拍手をしつつ彼女に賞賛と指摘を行う。

 彼の指摘に再び彼女は頭に血が上るが、彼の指摘は非常に的確であり、彼女は一旦深呼吸をして再び彼と向き合う。

「そう。それでいい」

スレイヤーはにやりと笑みを浮かべながらそう言うと腕を薙ぎ払い、横一文字の銀の弾幕を展開する。しかし弾幕勝負に慣れていないスレイヤーの攻撃は、この勝負に関してのベテランにとっては非常に弾道が読みやすく、そして避けやすい。例えそれの速度が音速の領域だったとしてもそれは変わらない。

「ふっ!」

横一文字に展開された弾幕の逃げ道は空にしかなく、彼女はその素直にその退路を辿る。

 案の定かわされた彼の弾幕はそのまま誰もいない場所を直進し、森の木を数本へし折ってから音もなく消えた。彼女はそれの威力に背筋が凍る思いだったが、何時までもそれを眺めているわけにはいかない。

 再びスレイヤーのいた場所に顔を向けると、既に彼はそこにいなかった。

 ―――!?

彼女が彼から視線を切ったのは精々コンマ五秒程だ。その一瞬で彼女の視界から消えることなど、普通の人間にはできない。だか、彼女が知るところではないが彼はその「普通の人間」ではないが故に、その一秒未満での高速移動が可能だった。

 彼女の背後から聞こえる風切り音。彼女がその音の正体に気が付いたころには既にそれが彼女の背中へと突き刺さり、地面へと叩きつけられる。しかし流石はベテラン。とっさに弾幕の進行方向へと高速飛行し被弾したものの多大なダメージを避けることができ、戦闘不能に至ることはなかった。

 地面から弾けるように跳ね起きると弾道の元をたどるが、そこには誰もいない。しかし追撃もないので警戒を強めて辺りを見回すと弾道の元の真下に彼は立っていた。不審に思った彼女は思わず質問する。

「あんた、まさか空飛べないのか?」

すると彼は人指し指でこめかみをポリポリと掻きながら苦笑いを浮かべ

「ははは。バレたか」

と素直に白状した。

「えぇ〜?」

この告白に魔理沙は呆れたような声を上げガックリと肩を落とした。

 もうこの時すでに彼女の中にともった戦闘意欲は全て洗い落とされてしまっていて、再び戦う気になれなかった。