冬の精霊は仕事を終え、春の活発に活動しているある日の博霊神社。

 気持ちの良い陽射しのなか、神社の縁側には仕事を放棄した紅白の巫女とその巫女を訪ねて遊びにきた白黒の魔女がともにお茶を啜っていた。

「あー、今日も平和ねぇ・・・」

湯呑みを口から離すと何を思ったのか突然巫女が呟く。

この神社の巫女はこの世界の番人として生きていく宿命があり、この世界を脅かす異変が起これば直ちにそれを解決しに行くのが仕事である。

数々の異変を解決していく巫女が住まうこの神社には、異変解決の謝礼がたまに出てきたりするのだが、それ以外、正確に言うと賽銭というものが全くない。

しかし、いったい何の神が奉られているかもわからない神社にご利益を求めて賽銭を放り込む人間が少ないのも当然ではある。

「何言ってんだ。平和が一番だぜ?」

平和が一番と言いつつも週に一回以上は戦争しに行く白黒の魔女が矛盾したことを口走る。

霧の湖に点在する紅魔館と呼ばれる屋敷にはそれこそ数え切ろうと思うと何十年とかかってしまうほどの蔵書量を誇る図書館がある。

以前異変解決をしようと訪れた際にこの白黒の魔女はこの図書館に目をつけ、以来周囲一回以上の間隔で本を盗みにその図書館に訪れている。

されど場所は図書館。図書館には司書がいて、たった一人ではあるが当然その本を読む読者もいる。

その読者こそがその図書館の主であり、本の持ち主である。

自分の持ち物を盗む者がいれば強制的に排除するのがこの読者。

そんな危険人物がいるにも関わらず毎週盗みに入るこの魔女の気がしれない。

 ズズゥ・・・

とお茶を啜る音が神社に生い茂る木々の囁きにかき消される。すると巫女は盛大な溜息をつき、異変解決をする人間とは思えない言葉を口にした。

「・・・異変でも起こらないかしら?」

「おいおい。物騒なことを言うもんじゃないぜ」

そんな言葉を聞いたものだから、魔女はついつい焦ってしまった。この巫女がこんなことを言うと、本当に異変が起きかねない。そう思ったのだろう。

「だって・・・ここ最近お茶しか口にしてないんだもの」

「異変が起きてるのはお前の腹ん中だろうぜ・・・」

さすがにこの台詞には同情せざる得ない魔女だった。