私は考える。より良い作品を考えている。

 私は主に推理やサスペンスが得意な小説家だ。この業界に来て二十余年、あまりにも「殺人」のパターンが増えすぎた。今ではどんなに奇抜な「殺人」を思いついたとしても、それは既に考案されていたりなど、今までにない「殺人」というのは、今の私には思いつかない。だからといって、今まで読んでいるだけだった、ファンタジーやSFなどには手が出せない。なぜなら、私にはそういうジャンルの構成能力がないからだ。例え書いたとしても、その辺の素人が書いたものと大差はない。故に私は考える。どのようにすれば良いかを考えている。


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 俺は考える。今この状況をどのようにして切り抜けるかを考えている。

 某株式会社のサラリーマンとして働いている俺は、上司の顔色を伺ながらも、八つ当たりされながら働く毎日だ。営業で外周りをしている連中を、羨ましく思えてくるほどだ。俺は経理課に配属しているが、仕事の内容は、伝票整理と上司のご機嫌取りと言ったところか。

 そんな俺が今日、いつものように上司から八つ当たりされるが、いつもより長々と説教されたせいで仕事が遅れ、帰るのが深夜になってしまった。毎日のように八つ当たりされている俺は、この日に限って苛立ちが消えなかった。

 ビルが建ち並ぶ帰路に建設されているコンビニで、夕食を買って帰ろうと思い、コンビニに立ち寄ろうとすると、四人のチャラついた若者達に絡まれ、一通りの少ない路地へと誘導される。上司への苛立ちが消えないときに、また一つ、苛立ちの種が増えた。

 若者達は多勢に無勢と思っているのか、はたまた俺がただのひ弱なサラリーマンだと思ったのか、恐らく両方なのだろうが。私は一見して細身だが柔道三段、剣道二段、琉球空手三段と、格闘技に精通している人間だ。こちらから手を出すことはないと心に決めていた。しかし、この若者達は、そんなことは露知らず

「金を出せ」

と、恐喝をしてきた。俗に言う「親父狩り」だろう。当然私はその要求を断ると、今度は暴力にものを言わすためか、殴りかかろうとしてきた。溜まりに溜まった私の苛立ちは、それをきっかけに爆発した。

 気がつくと、俺の足元には人間だったモノが四つ、横たわっていた。顔の原型は留めていなかったが、髪型や服装を見るからに、俺を恐喝してきた奴らだった。

『馬鹿な奴らだ。俺に勝てるわけがないだろう』

事態は深刻を極めているというのに、俺はなぜか至って冷静だった。ひとまずこの場から離れてみると、俺はとんでもないことをしてしまった実感が沸く。頬から感じる鈍痛がして、拳には奴らの血がべっとりと付着している。そして、そこからは頭蓋骨を砕いたことがわかる、妙に柔らかい感触も甦ってきた。強烈な吐き気を催した俺は、さっき現場とは違う、人気のないところで、吐瀉物を吐き出した。故に俺は考える。どのようにすれば逃げ切れるかを考えている。









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