私は、自分が人として歪んでいることを自覚している。

 他人の幸せな顔は見てても面白くない。逆に他人の不幸な顔は私の性的欲求を見たし、通り魔に会い究極の理不尽を受けた人間の顔は、私の乾きっぱなしの心を潤す。

 私のような人間はこの世に沢山存在するが、私ほどの人間はいないと自負している。

 私は昨日、二人の人間を不幸にした。相手は愛情に溢れている出来立ての美男美女のカップル。時間なんて私には関係ない。昼間の都心部でそれを行った。


      ◆


 今日は誰にしようかと、悩みながら私は天気の良い昼間の都心にタキシード姿で立っていた。交差点などは無く、大きな一本の道路を挟むように乱立するビル群。私がこれからすることには絶好の場所だ。「うーん」と唸りながら行き交う人の顔を眺めている。皆今日は休日だと言うのに、忙しそうな顔をして歩いている。ダメだ。あんなのじゃ私は満たされない。

 人の顔を眺め始めて一時間。私は今日の最高の獲物を見つけた。見るからに出来立てほやほやで一目も気にせずベタベタくっつきながら歩いているカップル。イイね・・・最高だ。

 私はカップルに近づき、二人の背後に立つと、ベルトに挿していたサバイバルナイフを鞘から抜く。

 まずは男にナイフを突き刺す。もちろん、急所を外すが二分もすれば出血多量で死に至るほど深い傷を負わせる。そして、刺されたと気付いてからみるみるとハンサムな顔が苦痛や恐怖が入り混じった顔に変わっていくのを間近で見る。この顔は何度見ても飽きない。あぁ・・・イイ・・・!

 自分の彼が刺されたというのに、その身内を助けようとはせず、私に背を向け全速力で逃げる女。そんな逃げ方をしないでくれ。あなたの顔が見れないじゃないか。私はその綺麗な顔が見たいんだ!

 私は懐から短銃を一丁取り出し、彼女の表情が崩れないように、脳天を狙い撃つ。

 発砲音とほぼ同時に彼女は前のめりに倒れる。私は彼女の顔を空に向けると、彼女に覆いかぶさるようにして、彼女を見る。ちぇ・・・失敗だ。

 彼女の顔は、弾丸が額を貫通したようで、弾丸の入口となった後頭部だが、出口となったそれは、弾丸だけじゃなく脳まで飛び出し、彼女の美しい顔はぐちゃぐちゃになっていた。

 事の一部始終を全て見ていた通行人達は、うっとりとした私の顔を見て、一時の静寂。一拍おいたら我先にと悲鳴を上げながらその場を走り去ろうとする。

 私はにたぁっと笑う。

「逃がさないよ」

と心の中で呟き、タキシードのズボンのポケットからC4爆弾の起爆スイッチを押す。それからコンマ二秒遅れて道路際に乱立しているビルが道路を塞ぐように倒れ、その下にいた人間達を踏み潰し、整った形をしていたビルは無惨に瓦礫に変わる。登ろうと思えば登れるが、混乱した人間達はその考えまで至らず、泣きそうな顔で立ち往生する。イイよその顔。最高だよキミ達・・・。

 十分に満たされた私は最後の仕上げとして、手榴弾を二つずつ両極に投げる。混乱した人間達は突然投げ込まれた異物を視認できず、爆発に飲み込まれる。

 爆発によってちぎれた手足は、四方八方に飛び散り、私の足元にもいくつか飛んできた。私はそのなかから女性の顔を拾い上げ、その恐怖に歪みきった綺麗な顔に濃厚なキスをして、その場を去った。







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