「うーん・・・今日はどこを狙おうか?」
木の枝に寝転び、白銀の髪を風になびかせ、ぼーっと浮遊世界を眺めながら、俺は今夜の忍び込み先を考えていた。
「そろそろ、家の食料がきれそうだし、どっかの食料庫でも忍びに行くか。ラグラスに言いに行くのがめんどくさいな。」
ラグラスが来る前は、行き当たりばったりで忍んでたんだがなぁ。まぁでも、ラグラスのおかげで、成功率は上がったけどな。ありがたいっちゃありがたいが、面倒なんだよなぁ。この前無断で忍んだら、ラグラスに半日説教食らったからなぁ。こえぇこえぇ。
ラグラスってのは犬の獣人で、本名はラグラス・ユーリ。半年前に俺の家に来た男。いや、オスって言えばいいのか?まぁいいや。あいつが旅をしていたところ、俺の家がある森で行き倒れていたんだが、その時は食料が沢山あったこともあって、飯を食わせたら、これが義理堅いやつで、恩を返すためにそのまま住み着いてしまった。それ以来、うちの参謀として、作戦を立てている。
ってな訳で、ラグラスに忍び込み先を報告。
「食料庫ですか・・・。ここから北西の村にけっこうでかい倉庫がありますね。」
「あそこか、あそこってけっこう人口多くなかったか?警備のほうはどうなんだ?」
「あそこの警備は薄いよ。農業で栄えた村だから大して屈強な男はいないし、楽に行けると思うよ。」
いつの間にやら、俺の後ろに立ってる猫の獣人。
「お、エルか。いつの間にそんな情報を?」
「まぁ、家の状況とかを考えたら食料庫狙うのは当然でしょ。兄さんはホント行き当たりばったりだからなぁ。」
ちなみに残りの食料は2日分しかない。
それと、こいつの名前はエル・ディアマーゴ。猫の獣人。約6年くらい前に忍んだでかい屋敷の跡取り息子。その六年前に忍び込んだときにヘマをしてしまって、こいつの部屋にかくまってもらったことがある。それをきっかけにこいつと知り合った。それから3年くらいこいつが俺のことを探してたらしいんだが、俺は知らなかった。まぁ、その3年間あってないから知る訳もない。3年前にエルの屋敷にもう一回忍び込んで、家の警備員には見つからなかったんだが、エルに見つかった。んで、モノを持ち帰る代わりにエルを持ち帰ることになった。んで、それ以来うちに住み着いている。ちなみに、うちの戦闘員3号。1号は俺ね。2号はまだここにいないと思う。
「うるへぇ。んで?警備が手薄になる時間は?俺としては今からでもいいんだけど。」
「警備が手薄になるのはちょうど7時から7時10分。このときがちょうど交代時間だよ。3日間見張ってみたけど、時間の変更はなし。ちなみに倉庫は村の中央。」
ドアの付近から戦闘員2号が登場。にしても、こいつらはなんでこうも俺たちの忍び先を調べてあるんだ?
「よう2号。ただいま。そして、情報ありがとう。」
「2号って呼ばないでよ!まぁ、エルには負けらんないからね〜。」
こいつはうちの戦闘員2号。またの名をグレイリア・ハーティス。俺の家の紅一点であり、俺の最初の仲間でもある。昔、義賊みたいなことをしてたことがあって、そのときの貧民街食料を配りにいったとこがあるんだが、その貧民街(スラム)に住んでいた一人。配り終わってから家に帰ると、いつの間にかついて来て、そのまま一緒に盗賊をやってるってわけだ。そして、やけにエルをライバル視している。理由は不明。
「まぁ、その10分間が勝負ってわけだ。しかも、別に見つかっても苦労はしないと。」
「しかし、あそこの村の面積は広かったはず。リアさん、倉庫までの距離はどれくらいでしたか?」
「んーっと、たしか1〜1,5km位かな?オレが走って2分そこでついたし。」
「ってことはだ、俺が走って1分。エルで1分後半か。食料を持ってるときのスピードも考えて、5分で食料を盗まなくちゃいけないってことだな。」
「そうなりますね。では、6時50分に現地。決行は6時59分にしましょう。作戦は現地でお伝えします。」
あいよ。と生返事を返しつつ部屋を出る。
今は4時20分。5時半に出れば充分間に合うな。それまでは俺の部屋で寝てすごすか。体力回復も兼ねて。
『フィー、みてくれ。これが異世界への空間トンネルを維持するためのクリスタルだ。これを、ここの世界とあっちの世界の次元の歪におけば・・・』
『自由に世界の移動ができるってわけだな?■■■■。』
『そういうこと。あっちの世界には、空に浮かぶ大陸、地下に埋まる文明があると聞く。このクリスタルが完成すれば、異世界の研究だけでなく、大陸の浮遊する理由。地下文明の存在理由もわかる。』
『俺はお前みたいに研究だけじゃなくて、あっちに住んでみたいぜ!』
『そういうのは、異世界用のクリスタルが完成したら願うもんだ。異世界には―――――――――――――』
「・・・なんだ?今の夢は?・・・駄目だ。思い出せん。・・・だけどなんか記憶にあるような気が」
うわぁぁぁ!なんかむかつく!このもやもやした感じ!・・・まぁいいか、いつか思い出すだろ。
「ぎぃ・・・」
ドアの開く音・・・。リアか?
「げ・・・。グレイ起きたの?」
げ・・・ってなんだよ、げ・・・って。にしても、なんで俺が起きるのと、こいつが部屋に入ってくるのいつも同時なんだ?
「なぁ・・・いつも思うんだが、お前は俺の部屋に何のようだ?ホントに夢遊病なんじゃないか?」
「な・・・なにって!そ・・・そろそろ時間って言いに来ただけ!っつか、夢遊病なわけないだろ!」
え?今何時だ?時計時計・・・。
・・・4時50分
「・・・家を出る時間まであと40分もあるんだが?それと、その手に持っているものはなんだ?」
白くて四角い・・・。それに、ふかふかしてそうだ。・・・枕?
「え?こ・・・これ!?これはその〜、ほら!あれだよ!俺も今起きたんだよ!んで、俺の部屋には時計が無いから、そろそろ時間なんじゃないかなぁってグレイに聞きに来たんだ!そうそう!あははは!」
そう・・・。ならいいけど。
「じゃ、俺はもっかい寝るから。」
そういって、布団にもぐる。・・・なんか布団に違和感あるんだけど?背中になんかあるよ?つか・・・
「リア!?なんで俺のベッドにいるの!?」
思わず布団から飛び上がる俺。そりゃ誰もが驚くでしょ。
「な・・・なにしてんだ?」
「なにって・・・時間まで俺も寝ようかなと・・・部屋に戻るのもめんどいし。ここにベッドあるし。」
顔を赤くして何を言ってますか?熱でもあるんかい?
「お前さんの考えはよくわからん。それと、熱があるなら無理するなよ。」
さて、ベッドは使えないから・・・う〜ん・・・。お!ソファーあるじゃん。あそこで寝るか。寝るのは一人のほうがいいが、まぁ、この際仕方ないな。
「じゃ、おやすみよ〜。」
一応、寝る前の挨拶を言っておこう。寝るっつっても、仮眠だけど。
『どうだフィー?異世界の雰囲気は?俺らの世界じゃ、この世界に来るのは、多分俺らが初めてだからなぁ・・・この空気を吸うのは、俺らが初めてってわけだ!新鮮だろ』
初めて踏む大草原で大きく深呼吸をしてみる。
『・・・あぁ、ここが俺の新天地だ。』
ガルバの目が輝いてる。・・・一瞬、なにやら黒い野望を秘めてる目に見えた。きっと、気のせいだろう。いや、そう願いたい。しかし、もしそうだとしたら俺は――――。
「・・・ん。」
まただ・・・。思い出せない・・・。なんなんだ、この嫌な感じは?・・・くそ!
「・・・?」
また違和感が・・・。今度は右肩。座って寝てしまったからな、右腕に負担のかかる寝かたでもしたかな?しかし、あったかいな〜。・・・って。
「リア!?」
びっくりして、体をどけようとしたけど、あまりにも気持ちよさそうに寝てるもんだから、体を動かしたら起こしてしまう。時間まで後10分くらいあるし。寝かしておこう。っつか、お前ベッドで寝てたんじゃないのか?
「・・・ほら、リア起きろ。もう出発するぞ。」
出発時刻になっても起きそうにないもんだから、俺が起こすことに。だけど起きない。
「ん・・・んん。」
にしても、こいつはなんでこんな幸せそうな顔で寝てるんだ?人の肩を枕にしてるくせに、寝にくくないのか?結構身長差があるから、首痛いだろうに。
「お〜い、起きろ!リア〜。」
いくら声をかけても起きにないし。・・・そうだ。体をどかせばいいのか。俺って頭いいー!
「よいしょ」
「・・・いた!!」
うまい具合にソファーのひじ掛けに頭をぶつけたリア。よしよし、ちゃんと起きたな。
「こんなひどい起こしかたしなくてもいいじゃんかぁ!」
「これは最終手段だ。最初は、それはもうやさしく起こしてたんだぞ?こう・・・やさしく頬をなでてだな」
やってもいない行動をジェスチャーしてやった。そしたらまぁ、グレイリアの顔が赤くなる赤くなる。面白いくらいに
「う・・・うそつけ!グレイがそんなこと出来ないことくらい知ってるんだ!へん!」
顔を赤くしながらずんずんと俺の部屋から出てっ行った。むぅ、面白いやつだ。何を考えてるかはわからんが。
「さて・・・。リアも出て行ったことだし、行くか。」
まぁ、持っていくのはバーナーナイフでいいか。あとは、バトルスティックだな。
・・・くそ、思い出せん。夢を見たという記憶はあるのに、どんな夢だったかが思い出せん。
「んあー!!何だってんだ!」
頭をがしがし掻く。いつもはこんなことに悩まないのに、今回に限ってこんなに悩むなんてどうかしてる。嫌な予感がしてならない。今回の作戦で、手に入れてはいけないものを手に入れてしまいそうな・・・そんな気がする。
−続く−
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