家について、食料をしまうときに気づいたことが一つ。

「あ・・・。金置いてくるの忘れた・・・。」

まぁ、いいか。ラグラスに気づかれなきゃ怒られることもないだろう。俺らは盗賊なんだから、金を置いていかないほうが普通なんだから。と、自分に言い聞かせる。

「さて・・・と。」

村から持ってきた、銃を取りだす。この妙に引きつけられる感覚は、銃からではなく、銃のグリップの部分から。多分、このグリップの中に『それ』はあるのだろう。

 ベッドの下から工具を取り出す。銃を壊さない理由は、壊したときの音で、皆が来ないようにするためだ。それに、銃が暴発したらそれこそ大変だろう?いや、誰に語りかけてるんだ俺は。

「・・・」

しばらく銃とにらめっこ。どうすれば銃って分解できるんだろう?むぅ・・・。ま、とりあえず弾は抜いておこう。

 テレビのやつの見よう見まねで、弾丸を取り除く。・・・テレビの知識っていざというときに使えるやつもあるもんだな。

「・・・」

そして、また銃とにらめっこ。ほんとにどうやって分解できるんだ?

「えい」

銃身とグリップの境をバトルスティックで思いっきり叩く。ついでに言うと、このバトルスティックは、この上で象さんたちがダンスを踊っても折れないという優れもの。まぁ、そんなことはさておき、人間には聞き取れない周波数の高音と共に、銃が折れた。ついでに、3名ほど俺の部屋に呼んでもいないのにやってくる。

「何の音!?」

俺を含めて、全員人間じゃないので、叩き折ったときの音を聞き取れたらしい。その音が何なのか気になっているようだ。なんという野次馬精神。いや、あの音が別の場所から聞こえたら俺もその場所に向かうから、人のこと言えないね。

「ん?あぁ、俺が気合を入れるために、工具を叩き折った音だ。だから気にするな。な?」

何事もなかったかのように俺はそう言って、銃を叩き折ったときの巻き添えを食らったであろうペンチを指差した。ちなみに、銃の残骸は俺のポケットの中。俺って仕事速いなぁ〜、と自分に感心してみる。

 それを聞いた3人は、どこか俺のことを変態を見るかのような目で見てから、帰っていった。ちょっと傷ついた。

 皆が部屋に戻ったことを確認してから、もう一度銃の分解作業に戻る。とは言っても、外装を割ると、中身がガラガラと机の上に落ちる。

「・・・工具。無駄になったなぁ。あれって少し高かったのに。」

最初から折っときゃ良かった。そしたら、工具を折らないで済んだのに・・・。

 落ち込むのもほどほどに、机の上に散らばっている銃の中身から、『引きつけられるもの』を探す。が、見つからない。割れたグリップをさかさまにしてみると

コロン・・・

と、『それ』が出てきた。これだ。これが『引きつけられるもの』の正体。

 それは、透明な石だった。多分クリスタルと呼ばれるもの。水晶のようにきれいにカットされていて、完璧なほどに透き通っている。しかし、何でこれに引きつけられるような感覚を覚えたのかわからない。

 しばらくクリスタルを眺めていて、俺は何を思ったのか、ぎゅっと握り締めてみた。すると

『やっと出会えた。久しぶりですね。いや、初めましてというべきでしょうか?私達の生みの親、ユリウス・フォン・ガルティア。』

突然、頭に女性とも男性とも取れない、中性的な声が、俺の頭の中で響き始めた。が、俺はそれほど驚かなかった。いや、かなり驚いてはいるのだが、なぜか、そうなることを知っていたような気がした。

「は?ユリウスって誰のことだ?しかも生みの親って、俺に語りかけてるってことは、俺のことなのか?」

俺は、皆にグレイと呼ばれていたが、実は本当の名前じゃない。しかし、名前を隠しているわけじゃなく、俺も本当の名前を知らないのだ。俺は、俗に言う記憶喪失というやつだった。スラムに食料をわけに行く前の記憶が全く無い。グレイという名前も、リアに名前を聞かれてから、自分でつけた名前だ。しかし、いくら記憶が無いとはいえ、意思を持つ石を作ることができるほど、俺の頭は良くない。はず。

『当然でしょう。そもそも、私が語りかけることができるのは、あなた。もしくは、フィーロスト・エバニエルの二人だけですから。』

フィーロスト・エバニエル?聞き覚えの無い名前だが、どこか懐かしい名前だ。いや、今はそれよりも

「お前は、俺のことを知っているのか?」

『はい。あなたは私達の生みの親ですから。知っていて当然です。』

俺の本当の名前を知っているということは、俺の記憶の無くなる前を知っているということだ。それに、私達を言うことは、俺はこのクリスタルを複数作っていることになる。

『俺のことをもっと知りたい。』

前から思っていたことではあったが、どこに行っても自分の過去を知らない人しかいなかった。時間が経つにつれて、自分の過去より、今の生活のほうを重視するようになってからは、この『自分を知りたい』という感情がどこかに行ってしまっていた。しかし、今は自分の過去を知るモノがいる。本当の自分を知ることができるかもしれない。そう思うと、俺は今の楽しい生活より、自分の過去を知りたいという気持ちのほうが大きくなった。すると、俺はこんなことを口走っていた。

「お前が知っている俺のことを全部話してくれ。もし何か条件があるなら、俺は何でもやってやる。」

決意のこもった声で、俺はクリスタルに語りかけた。すると

『残念ながら、私は見ての通り体が小さく、それに比例して、私の持てる情報は少なくなっています。ですから、私が持っている情報はほんのわずかです。』

そういうと、少し間をおいてから、また俺の頭の中に声が響いてきた。

『あなたの名前は、ユリウス・フォン・ガルティア。今より1億年前に私達を作り、この三世界に文明を築くきっかけを与えた人物です。』

「・・・」

衝撃だった。名前のことはもう良いとして、俺が1億年前にクリスタルを作って、この世界の文明のきっかけになった?言ってる意味が良くわからん。もしこの話が本当なら、俺が生きていること自体がおかしいことになる。このカミングアウトは納得がいかなさ過ぎる。しかし、このクリスタルに八つ当たりしてもしょうがない。俺は冷静に聞いてみた。

「その話は本当か?」

と。すると

『間違いありません。』

と返ってきた。もう一つ聞いてみる

「じゃあ、何で1億年前にお前たちを作った俺が、今生きているんだ?」

と、当然の疑問をクリスタルに投げかける。

『私の中にはその質問に答えるための情報はありません。』

冷たく、冷静に、機械的な声で返ってきた。

「ふざけるなよ。せっかく俺の過去がわかるかと思ったのに、何なんだよこの仕打ちは?おい。わたしたちって言ったよな?お前以外にも俺を知っているやつはいるんだよな?」

憤慨しながらも、俺の声はすがりつくような声になっていた。ひどすぎる。楽園を目の前にして、奈落のそこに突き落とされた気分だ。だけど、クリスタルの声が、そんな落ち込んだ俺に大きすぎる希望の光を与えてくれる。

『はい。私は地上世界のクリスタルの欠片。私の母体である地上のクリスタルは、私より多くの情報を持っています。あなたが本当に、自分のことを知りたいのであれば、私の母体である地上のクリスタルの元へ行ってください。そうすれば、あなたがなぜ、生きているかなど、あなたの知りたいことを教えてくれるでしょう。』

これが、俺にとって希望の光となった。自分のことを知るためならば、どこへでも行ってやる。

 俺は、クリスタルをポケットにしまい。3人を呼びに行こうと部屋の外に出た。すると、3人とも部屋の外に立っていた。

「ちょうど良かった。今からお前たちを呼びに行こうと思ってたんだ。」

俺はいつもの調子で言ったつもりなのだが、なぜか3人とも暗い顔をしていた。

「おい、どうしたんだ3人とも?」

「ねぇ、グレイ。」

真剣な顔をしたリアが、俺に言った。

「ここを出て行くつもりなの?」

真剣で、泣きそうな顔で、俺にそう言ってきた。その声を聞いていると、行かないでほしいと俺に言っているような顔だった。

「先ほどより、あなたともう一人の声が、私の頭の中に響いてきましてね。はじめは気のせいかと思っていたのですが、どうやら、エルやリアさんも聞こえていたらしく。話は全部聞こえていました。」

ラグラスが、俺が疑問に思っていることを解いてくれた。なるほど、3人が俺の部屋の前にいる理由がわかった。どうやら、あのクリスタルとの会話は俺の家に駄々漏れだったらしい。

「そうか。」

と俺はそういってから、リアをなだめるように言った。

「確かに、俺はこの生活が大好きだ。お前たちのことも、大事な家族だと思ってる。だけど、俺はその大好きな生活の中で、俺だけが自分を知らない者として、自分で壁を作っていたこともあった。だから、俺はこの生活を捨てるために家を出て行くんじゃなくて、またこの家に戻ってきたときに、この生活がもっと楽しくなるために、お前たちとの壁をなくすために家を出るんだ。だから、何年かかるかわからないけど、必ずここに戻ってくる。な。」

言っていることに嘘は無い。が、実際この家を捨てていくことには変わりない。自分のために、家族を捨て、家を捨てる。最低だ。

「兄さん、僕も・・・・・・いや、絶対に戻ってきてね。」

エルは何か言いたげだったが、目に涙を溜めながら笑顔を俺に向けた。・・・エルらしい。が、なんでこんな最低なやつにそんなことを言ってくれるんだ?怒ってもいいんだぞ?この最低野郎って殴ってもかまわないんだ。俺はそれぐらいやられても仕方ないことをしようとしてるんだ。なのに、何でそんなことを言ってくれるんだ?

「・・・いやだ。・・・いやだよ。行かないでよ!お願い、行かないで!俺は・・・私はあなたがそばにいてくれなきゃいやだ!ねぇ、行かないで!どうしても行くなら、私も連れてって!」

エルとは逆に、リアは泣き叫びながら、俺を引きとめようとする。普段の言葉遣いも忘れて、普通の女の子みたいな口調で、力なく俺を叩きながら、こんな俺を引き止めてくれる。・・・俺は恵まれすぎてる。俺は馬鹿だ。

「・・・ごめんな。」

そういって、俺はリアの意識を一時的に沈めた。

「ラグラス。あとのことは頼むぞ。」

気絶しているリアをラグラスに預ける。ラグラスは何も言わずにうなずいてくれた。

「エル。これからは屋敷のやつも見ても逃げるなよ。もし逃げたりしたら、帰ってきたときに怒るからな。」

俺は少し無理して笑ってみた。だけど、やっぱり俺の目からも涙が少しこぼれた。エルはそれを見て、溜まっていた涙を流しながらうなずいた。

「・・・じゃあな、リア。本当にごめんな。」

気絶しているリアの額に軽くキスをしてから、俺は家を出た。

「さて、これからは自分探しの旅だな。」

クリスタルのある場所へと向かう・・・。本当の自分を知るための旅になるから、気合を入れるために、そう呟いた。

 満点の星の下で。



―完―






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